刺繍は当社の屋号の通りもっとも歴史が古く技術改良や素材の改良がすすんでいる分野です。刺繍自体の技法は基本的に10種類ぐらいで、実際は技法とは呼べないものも入れて50種類ぐらいでしょうか。刺繍での当店(当社?)と他店の違いは細かい技術もありますが、素材の違いがあげられます。刺繍のメンイの材料と言えば色糸ですが、通常 糸染屋さんに発注するのは他店と同じですが、たいていは思ったような色は出ません。当店では糸染屋さんに染めてもらった後、好みの色が出るまで社内で何度も染め直します。

何度も染め直すことによって重ね染の効果が得られ他店にはない深みのある色糸ができ上がります。もう1つ刺繍の材料として撚り糸の豊富さがあります。当店では撚った色糸と金糸を抱き合わせた撚り金に別の金糸同士を撚り合わせた重厚な撚り糸を開発しました。これを金駒縫と同じ要領で表現すると駒糸ではどの方向から見ても同じ輝きであるのに対し、この撚金では、数種類の金糸と色糸を撚り合わせている為、見る角度によって輝き具合が違って見えます。

また、竹屋町縫と呼ばれる平金糸(箔を糸状に裁断)は通常広い面積には、平金が剥れてしまいますが、当店の平金糸は裏面に特殊な加工がしてある為、広い面積の柄でも竹屋町縫が可能です。刺繍というものは技術で魅せる事はもちろんですが、高度なレベルになると解りづらいものになってしまいます。むしろ豊富な糸の種数を使い分ける事によって趣きを出す事の方が大事と当店は考えます。

配色
当店では、電球による色のブレをなくす為、自然光の一番安定した北向きの部屋で配色します。簡単な附下なら5、6色ぐらいですが豪華な留袖や色留袖などは金糸も含めて50色以上の糸を使う時もあります。




   
1.平金糸
平金糸は帯に使われる引箔を糸状に細断した糸です。この繍い方は俗に竹屋町繍とも言われます。

この糸の特色は非常に光沢がある事です。駒糸や撚り金はとじ糸や撚りによる影響で光度が落ち着いていますが、平金は金箔なのでとてもよく光ります。この様に蒔絵など金本位の柄に対して平金は不可欠な存在であります。

又、平金の欠点としてめくれやすい欠点があります。当店では平金糸に特殊な加工をし、めくれ上がるのを防ぐ工夫を凝らしています。
 
2.螺鈿
蒔絵などの漆器に使われる材料の螺鈿を薄くシートに貼り付け、熱で固着させ、透明の糸で縫って止めています。


3.撚り金
3種の細かい金糸を撚り合わせた特殊な金糸です。この糸の特徴は角度によって撚られた金糸が様々な輝きをはなつことです。撚り合わせた違う金糸同士をさらに撚り合わせた重厚な撚り金も柄に依って使用します。
 
4.本金駒糸4掛・黄とじ糸
駒糸は純金色や、やや青みがかった糸は木金糸を使用します。夏物などには銀駒やそれに着色されたウス金を使用します。

とじ糸は、一見地味な存在ですが、同じ金駒でもとじ糸が変われば違う色に見えます。当店ではとじ糸の使い分けによって表現に幅をもたせています。

留袖や色留袖などは近年黄とじ糸が主流ですが、振袖や派手ものの訪問着には朱とじや赤とじを主に使用します。特殊な例として松葉のグリーンを表現したい場合グリーンとじを用いることがあります。