刺繍部門
刺繍には2通りの表現方法があり、刺繍だけで模様を創り出す技法の「素縫い」と友禅染で描かれた柄の一部に刺繍で加飾する「あしらい」が有り、前者は費用がかかり非常に高価になり作業の進め方もある程度の方向性を決めたら刺繍職人に一任することになります。アイテムとしては主に飛び柄の付け下げや訪問着、タイコ柄の帯地によく用いられます。一方「あしらい」は既に友禅染で柄が出来上がっているのでクライアントの意向をよく聞き例えば友禅染の差し色に艶が欲しい=同色の糸で又、刺繍を際立させて欲しい=異なる色や光沢のある金銀糸、太くて金糸やラメ入りの色糸で刺繍します。
刺繍とよく用いられる技法
金彩と刺繍
無地に刺繍は一番基本のパターンですが、いきなり刺繍だと立体感が出すぎてきつい印象を与えることがあります。そこで金彩(箔や金泥)を間に入れてやることで優しさと豪華さを与え、刺繍のダイレクト感をおさえることができます。我々は通常これを繍箔とよんでいます。
絞りと刺繍
江戸中期までは着物の染色技法は絞りと刺繍と摺箔だけでした。最も贅沢で華美な組み合わせでしょう。絞り染は主に鹿の子絞り、帽子絞り、桶絞り、縫い締絞りと併用され、独特の立体感があります。ですが、模様の輪郭が正確に出し辛くカジュアルな印象を与えます。これを刺繍と摺箔で補完することで立体感のある格調高い着物が出来上がります。難題は贅沢禁止令が出た技法であるが故に高価になってしまうことと時間が掛かってしまうことです。創作する際に下絵の無駄描きがないよう細心の注意を払ってデザインする必要があります。
白上げと刺繍
もち米からつくられた糊を筒描きによって白く染めや抜かれた箇所に摺疋田と墨描きで柄を起こし、そこに刺繍を入れる友禅染初期にあった小袖の技法です。白上げ技法による白さに対して刺繍で色を付けることでコントラストが生まれ刺繍の存在感が出ます。通常御所解とか茶屋辻とも呼ばれます。このジャンルは古典着物のデザインに携わる方には非常にポピュラーであり、各絵師によって花や葉の形それぞれに個性が出ます。